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ワイナリー便り 
-2026年8月-

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ワイナリー便りは、毎月、世界各地のワイン産地から、畑やワイナリーの情報などをお届けしていきます。畑の様子、季節の移ろい、ワイン造りの現場。グラスの中だけでは見えない、生産地の「今」を、現地からの声とともにご紹介します。
2026年8月は、南半球、チリのリマリ・ヴァレー ケブラダ・セカ ヴィンヤードの畑から。

冬から春へ。ケブラダ・セカで始まる新たなヴィンテージ
日本では夏真っ盛りの8月ですが、南半球のチリでは冬から春へと移り変わる季節を迎えています。リマリ・ヴァレーのケブラダ・セカ ヴィンヤードでは、冬の剪定が終わり土壌管理など次の生育期に向けた準備が進められる一方、区画によっては芽吹きも始まります。今回のワイナリー便りでは、夏の生育期に撮影された畑の美しい風景とともに、その個性を育む海霧、土壌、そして冬の畑仕事をご紹介します。夏に実るブドウと冬の仕事は、一年を通じたワイン造りの物語としてつながっています。

アタカマ砂漠の入口に広がる アメリアの故郷

ケブラダ・セカ ヴィンヤード1

チリの首都サンティアゴから北へ約400km。アタカマ砂漠の入口に位置するリマリ・ヴァレーに、ケブラダ・セカ ヴィンヤードは広がっています。畑の面積は約65ヘクタールで、主にシャルドネ、一部にピノ・ノワールが植えられています。

標高約190m、リマリ川の北岸に位置し、太平洋からの冷涼な影響を受けるこの土地は、一般にイメージされる北部チリの暑さとは異なる、繊細なブドウ栽培を可能にします。
乾燥した大地、海から届く冷気、朝の曇り空、そして石灰質を含む土壌。複数の自然条件が重なることで、ブドウは急ぐことなくゆっくりと成熟し、アメリアのワインを特徴づけるフレッシュさ、緊張感、ミネラル感が形づくられていきます。

8月の現在、畑は冬の休眠期。華やかな生育期の裏側で、次のヴィンテージへの準備が静かに進められています。

海霧「カマンチャカ」が育む ゆっくりとした成熟

ケブラダ・セカ ヴィンヤード2

ケブラダ・セカ ヴィンヤードの個性を語るうえで欠かせないのが、「カマンチャカ」と呼ばれる海からの冷たい霧です。
太平洋からわずか23kmの場所に位置するこの畑を、毎朝のように覆うこの霧は、強い日差しを和らげる天然のフィルターとして機能し、ブドウ畑の温度上昇を穏やかに保っています。

リマリ・ヴァレーは世界でも非常に日照量の多い地域のひとつですが、カマンチャカの存在によってブドウは急速に成熟することなく、酸味を保ちながらゆっくりと熟していきます。この長い成熟期間こそが、アメリアのシャルドネやピノ・ノワールに見られるフレッシュさ、緊張感、そして繊細なミネラル感を生み出す大きな要因です。
太陽の恵みと海からの冷涼な影響という、一見相反する自然条件が見事なバランスを保つことで、ケブラダ・セカならではのエレガントなワインが誕生します。

2つの土壌が形づくる アメリアの個性

土壌

アメリアのワインを特徴づけるフレッシュさやミネラル感は、ケブラダ・セカ ヴィンヤードの独特な土壌に支えられています。
この畑には大きく2つの土壌タイプが存在します。ひとつは「ケブラダ・セカ・ソイル・シリーズ」、もうひとつは「サンタ・クリスティーナ・ソイル・シリーズ」です。

ケブラダ・セカ・ソイル・シリーズは、古代の海洋堆積物によって形成された土壌で、土壌断面全体に豊富な石灰質(炭酸カルシウム)を含んでいます。この独特の地質的構成は、ブドウ畑の個性を決定づける重要な要素であり、ワインに精緻さ、張り、そして特徴的なミネラル感を与えています。(写真上)

一方、サンタ・クリスティーナ・ソイル・シリーズは、土壌断面全体を通じて礫の含有率が高く、赤色粘土を多く含むことが特徴です。表層と下層で性質が異なり、下層には炭酸カルシウムを含む層が存在します。この水はけの良い土壌は、海洋起源の地質と相まって根の深い伸長を促し、ワインに活力、骨格、そして複雑さをもたらします。特にピノ・ノワールにおいては、豊かなアロマや奥行きのある味わいを生み出す重要な役割を果たしています。(写真下)

異なる個性を持つ2つの土壌が共存することで、ケブラダ・セカ ヴィンヤードのワインはフレッシュさやミネラル感だけでなく、複雑さと奥行きも兼ね備えた味わいとなります。アメリアの精密でエレガントなスタイルは、こうしたテロワールの多様性によって支えられているのです。

収穫後の土壌に 再び生命力を

土をほぐす

収穫を終えた畑では、次の生育期に向けて土壌を整える作業が始まります。
その一つが、深い層まで土に空気を取り込む土壌のエアレーションです。踏み固められた土をほぐして酸素を送り込むことで、土壌中の微生物の活動を促し、ブドウ樹の根が健全に働くための環境を整えます。
ケブラダ・セカのような乾燥した土地では、目に見える葉や果実だけでなく、土壌の状態と根の活力を保つことも、畑の持続性を支える大切な仕事です。
冬の畑は一見すると動きが少なく、静かに見えるかもしれません。しかし土の中では、次のシーズンに向けた準備が進んでいます。アメリアのワインに表れるフレッシュさや精密さは、特別な自然環境だけでなく、収穫後から続く丁寧な畑仕事によって守られています。

現冬の剪定が 夏の光をデザインする

冬の畑

ブドウ樹が休眠期に入る冬の畑では次のシーズンへ向けて剪定も進められます。
ケブラダ・セカでは長梢剪定を行い、翌シーズンに枝葉が生長したとき、樹冠の内側まで適度に光が届く、開放的な形を整えていきます。目的は、単に枝を切ることではありません。強い日差しを直接果実に当てすぎず、葉を通して穏やかに光を取り込める環境を、冬の段階から設計することです。
風通しと光の入り方を整えることは、果実を守り、ゆっくりとバランスよく成熟させることにつながります。冬の剪定は、夏の畑の姿とブドウの品質を左右する、いわば一年の設計図。健全で整った樹冠は、一年を通じた畑管理の積み重ねによって形成されるのです。
静かな冬の畑で行われる一つひとつの判断が、アメリアのフレッシュさや繊細さ、そして土地の個性を映し出すワインへとつながっています。

冬の終わり 畑に訪れる新しい目覚め

萌芽

写真は、過去の8月に撮影されたケブラダ・セカ ヴィンヤードの様子です。冬の間に剪定されたブドウ樹から、鮮やかな緑色の新芽が顔を出しています。ブドウ樹の「芽吹き」は、休眠期の終わりと、新しい生育シーズンの始まりを告げる重要な節目です。

リマリ・ヴァレーは、カマンチャカによる冷涼な影響を受けるテロワールですが、南緯約31度と緯度は低く、日照も多いため、シャルドネとピノ・ノワールが萌芽の早い品種であることとあいまって、芽吹きは早く例年8月中です。芽吹きのタイミングは毎年の気候条件によって異なるため、生産チームは区画ごとの状態を注意深く観察し、その後の生育を見守ります。

日本では真夏の暑さが続く一方、南半球のリマリ・ヴァレーでは新しい季節が始まろうとしています。小さな新芽は、次のアメリアへとつながる一年の始まり。その成長の先に、また新たなヴィンテージが生まれます。